絵が売れないのは、腕前ではなく「価格設定」が原因であることが少なくありません。安すぎれば価値が伝わらず、高すぎれば手が出ない。結論から言うと、絵の価格は「感覚」ではなく「計算式」と「実績」で決めるべきです。この記事では、現役の画家であり会社経営者でもある私が、実際に自分の作品につけてきた価格と、そこに至るまでの失敗も含めてお伝えします。
絵の価格はなぜ「なんとなく」で決まってしまうのか
相場が存在しないという特殊性
絵画には家電や食品のような明確な「定価」がありません。同じサイズ、同じ画材でも、作家によって数千円から数百万円まで幅があります。この「基準のなさ」が、副業で絵を売り始めた初心者を最も迷わせるポイントです。
「安くしないと売れない」という思い込み
多くの初心者は「まだ実績がないから安く出そう」と考えます。しかし、これは経営的に見ると危険な発想です。一度安い価格で売ってしまうと、その後値上げするたびに「前より高くなった」という抵抗感を買い手に与えてしまうからです。私の場合は、最初の個展で1点8,000円という価格をつけてしまい、翌年その反省から値上げした際、常連客から「前と違う」と何度も言われました。最初の価格設定が、後々の値上げの難易度を決めると身をもって学びました。
絵の価格設定、3つの計算方法

価格の決め方には主に3つのアプローチがあります。それぞれにメリットと限界があるので、自分の状況に合わせて選ぶことが大切です。
方法1:原価積み上げ方式
画材費・制作時間・会場費などのコストに、自分の時給を掛けて算出する方法です。
- 画材費:平均3,000〜8,000円(F10号程度)
- 制作時間:1点あたり15〜40時間
- 自分の時給:1,500〜3,000円で仮設定
例えば制作時間20時間、時給2,000円、画材費5,000円なら、原価は45,000円になります。これはあくまで「最低ライン」であり、これより安く売ると赤字になります。
方法2:実績ベース方式(号数計算)
画廊業界でよく使われる「1号あたりいくら」という考え方です。F1号(22.7cm×15.8cm)を基準に、号数×単価で価格を出します。
| 号数単価 | F10号の目安価格 | 想定される実績段階 |
|---|---|---|
| 3,000円/号 | 30,000円 | 個展未経験〜初回 |
| 8,000円/号 | 80,000円 | 個展2〜3回、SNSでの実績あり |
| 15,000円/号 | 150,000円 | 受賞歴・メディア掲載あり |
私の場合、会社を経営しながら制作していることもあり、最初から号数単価を3,000円ではなく4,500円に設定しました。理由は単純で、経営者として「安売りは信頼を落とす」という感覚が強かったからです。実際にやってみると、価格を少し高めに設定した方が「本気で活動している作家」という印象を持たれ、問い合わせの質(冷やかしではなく本当に欲しい人からの連絡)が上がりました。
方法3:市場相場リサーチ方式
同ジャンル・同レベルの作家の価格を10〜20人分リサーチし、平均値の中央値付近に設定する方法です。SNSやオンラインギャラリーのプロフィール、過去の販売履歴が参考になります。安すぎる相場に引っ張られないよう、自分より少し実績が上の作家も含めて調べるのがコツです。
初心者が陥りがちな価格設定の失敗3選
- 値下げ交渉に安易に応じる:一度応じると「交渉すれば安くなる作家」という印象が固定化し、以後の販売が難航します。
- サイズだけで価格を決める:同じサイズでも制作時間や技法の難易度によって原価は変わります。号数だけで機械的に決めるのは危険です。
- 販売手数料を計算に入れない:オンラインギャラリーやハンドメイドサイトでは15〜30%の手数料がかかるケースが多く、これを考慮しないと手取りが想定より大きく減ります。
私が実践している値上げのタイミングと伝え方

値上げは「実績が変わったタイミング」で行うのが鉄則です。個展の来場者数が増えた、SNSのフォロワーが一定数を超えた、メディアに掲載された、といった客観的な変化があった時に踏み切ります。
実際にやってみると、値上げの告知は「感謝+理由」の順で伝えるのが最も反発を招きませんでした。「これまでご購入いただいた皆様のおかげで、来月から新作の価格を改定します」という形です。値上げそのものより、伝え方一つで印象が大きく変わることを、経営者としての交渉経験から実感しています。
副業として絵を売る場合の価格の考え方
会社員や別の本業を持ちながら絵を売る場合、価格設定の優先順位が専業作家とは異なります。時間が限られる分、1点あたりの単価を下げるより「制作点数を絞って単価を維持する」方が長期的に健全です。私自身、会社経営と並行して制作しているからこそ、時間単価を安売りしない価格設定を意識的に選んできました。この二重の立場だからこそ見えてきた価格戦略は、経営者としての視点を持つ作家ならではの強みだと感じています。
よくある質問(FAQ)

Q1. 絵の価格はどれくらいの頻度で見直せばいいですか?
A. 年1〜2回、もしくは個展や大きな実績があったタイミングで見直すのが目安です。頻繁すぎる変更は信頼を損ないます。
Q2. 委託販売の場合、手数料はどう価格に反映させるべきですか?
A. 手数料を差し引いた金額が「自分の希望手取り額」になるよう、先に逆算して販売価格を設定してください。
Q3. 友人や知人に安く売ってほしいと言われたらどうすべきですか?
A. 定価を維持しつつ、特別な関係性に対しては別枠の小作品や複製画など、価格帯の違う選択肢を用意するのがおすすめです。
Q4. SNSでの反応が少ない作品は値下げすべきですか?
A. 反応の少なさは価格ではなく露出や見せ方が原因であることが多いため、まず投稿内容や写真の質を見直すのが先です。
Q5. オンラインとオフライン(個展)で価格を分けてもいいですか?
A. 基本的には同一価格が信頼につながります。分ける場合は「限定制作」など明確な違いを設けましょう。
まとめ
絵の価格は感覚ではなく、原価・実績・相場という3つの視点で計算して決めるものです。安売りは一時的な売上にはなっても、長期的な信頼を損なう可能性があります。値上げのタイミングと伝え方まで含めて設計することが、副業からでも「売れ続ける作家」になる近道です。私が画家と経営者という二つの立場からたどり着いた考え方については、ストーリー記事でもさらに詳しく紹介しています。

